植物名に現れた台湾の固有名詞

著者:元・玉川大学教授 許田 倉園

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1.タイワンスギ

タイワンスギ
タイワンスギ
タイワンスギ
高さ50m以上になる常緑高木。
北米の巨木セコイアデンドロンに近縁だといわれる。

親しみやすい和名「ネジバナ」であっても、Spiranthesのように難解な学名であっても、名前がその形状を的確に捉らえていたら非常にありがたい。後者は学名の一部で、speira(巻きつき捩れる)とanthos(花)が合さってできた属名で、この仲間の特徴である捩れた螺旋状の花の付き方が良く表現されていて判りやすい。螺旋階段状になった花序の形態どころか、英語の"spiral"まで連想してしまう。

学名の第一語は属名で、ラテン語の名詞が使われ、「タイワンスギ属」(Taiwania)の場合など、地名の"台湾"が表に出ていて何となく意味が判る。しかしこれはむしろ例外的で、大抵の場合その仲間は外国で先に発見されていて、私たちに馴染みの薄い意味不明の横文字になっているのが普通である。後に続く第二語は、同じ仲間を区別するためにある種小名である。属名を効率良く修飾する形容詞で、「mume」、「tsuga」のように日本の固有名詞"ウメ"や"ツガ"の発音がそのままローマ字で表示されて書かれていると本当に親しみやすい。

現実に学名を見まわすと、不可解なものが多く、親しむには程遠い名前がほとんどである。日本の学者によって、研究の基礎が築かれた外地の植物は、比較する種類を本土の植物に求めることが自然の成り行きで、台湾などの植物研究では異なる言語・見知らぬ地名や民俗などの表現に新しい壁が加わって、一層難解度が深まる。

地名の表記も文字を持たない原住民の名称から台湾語による漢字の当て字、それに政令による日本語読み・戦後の北京語による発音などで改悪、その変遷は複雑を極め、現地で言語に支障が無い人でも戸惑うことがまま多い。戦後生まれの人に、台北を"たいほく"と日本語読みに発音されても、台湾の人は首都であるのに、何処を指しているのか判らないのが当たり前である。

タイワンスギの場合は、属が台湾で最初に発見されて、日本にふつうに成長するスギと外見が似ていて非なるを以って、裸子植物の新たな種属として当時台湾総督府の嘱託で公的な立場から、台湾の植物を研究されておられた東京帝国大学の早田文蔵先生によって命名された。学名はTaiwania cryptomerioides。属名は台湾で発見され、未だ世界に例を見ないので新しい属として発表された。種小名は形容詞であるべく、スギ属 Cryptomeriaに似ているので、語尾に‘oides' をつけてラテン語化したものである。漢字の表記は「台湾杉」、台湾語で「亜杉」(Ah-sam)、北京語の発音はTai-wan-sanとなる。