小笠原の植物

著者:小笠原野生生物研究会 豊田 武司

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1.タイヨウフウトウカズラの「タイヨウ」とは

暖地の海岸樹林内によく見られるツル性のフウトウカズラ
上:小笠原の固有種で直立性のタイヨウフウトウカズラ
左:暖地の海岸樹林内によく見られるツル性のフウトウカズラ
上:小笠原の固有種で直立性のタイヨウフウトウカズラ

タイヨウフウトウカズラとはどんなものか。小笠原に来た当初は、太平洋上の島に生育するフウトウカズラか、それとも南国の暑い太陽の下に咲くフウトウカズラを意味するのか、などと考えていましたが、「大葉のフウトウカズラ」の意だとわかって一寸がっかりした思い出があります。小笠原の固有種であるとともに、コショウ科の絶滅に瀕している稀少種で、この類縁種は台湾~熱帯アジア、アフリカに広く分布するPiper umbellatum L. だといわれています。小笠原諸島母島の石門山の石灰岩地域のやや湿潤なところに生育し、高さ1.5-2.0mに伸びるやや大型の直立性常緑多年草で、やわらかな大きな丸い葉が特徴です。

小笠原が日本に返還された直後は、石門山のカルスト台地の南西部にあるクワの大木の伐根附近に10本程度の小群落があり、そのほかには小屋の沢と石門山北面の沢に小群落がありました。しかし、タイヨウフウトウカズラは、外来のアフリカマイマイの大好物になっているようで、石門山周辺にしかないセキモンノキとともに食害がひどく、このままだと絶滅してしまいそうです。現在このタイヨウフウトウカズラは、桑の木山のコブノキのあった近くに数本が栽植され、アフリカマイマイ避けの金網の柵を設けるなどして保護されています。

2.ムニンとつく植物-ムニンヒメツバキ-

ムニンヒメツバキ
ムニンヒメツバキ
小笠原では「ロースード」と呼ばれることがある。
「ローズ・ウッド」(バラのような花が咲く木、の意)がなまった
ものといわれている。樹皮はタンニンが多いので魚網の染料原料と
されてきたという。(『小笠原植物図譜』より)

小笠原村の村花であるムニンヒメツバキは、村のすべての人たちに身近に感じられ、親しまれ愛されている乳白色の花で、初夏に咲くヒコサンヒメシャラの花を思わせるようなやさしい花である。皐月晴れの山野に咲き競うムニンヒメツバキの花を見ると、小笠原の初夏の訪れを知り、それは自然が活気づいてくる季節で、多くの植物たちの生きる姿に酔いしれるときである。わずか数平方キロメートルの小さな島々であるが、本土から1000キロの太平洋上に浮かぶ小島群の小笠原諸島は、南国の日の光を一杯に浴びた明るい島々であり、内地の騒音とめまぐるしい生活の中で疲れ果て、癒しを求めたい人たちには、この上もない心の休まる楽園に感じるところである。

島の山肌を一面に白く染めるムニンヒメツバキの花を見ると、豪華な装いでもないこの花に魅了される。小笠原の島の人たちにロースウッドと呼ばれ、村の花として親しまれている。そのムニンヒメツバキを琉球産のイジュと同種とする見解もあるが、イジュは東京都下の高尾山に近い樹木園でも生育し開花もするが、ムニンヒメツバキは冬期屋外では生存が不可能である。形態的にもイジュとは、葉の幅が広く葉脈が異なり、葉縁は全縁で、花弁がやや大きく、花色が乳白色などの差異があって、琉球産のイジュと同種とする見解には同調できない。

島の人たちは、琉球とともに亜熱帯の島という共通意識はあっても、小笠原は太平洋上に浮かぶ小島群で海洋島、という違った認識をもっている。そんな海洋島に咲くムニンヒメツバキは、特に珍しくもないのに身近に感じられる捨てがたい魅力があって、一度開花期に訪れた人たちの心に残る、島の代表的な植物だといえる。

ところで、和名の冠称「ムニン」は「無人」の意味であり、小笠原諸島が古く「無人列島」と呼ばれていたからである。これは英語による呼称「Bonin Islands」(ボニン・アイランズ)の由来でもある。小笠原には、ほかにも「ムニン」のつく植物が多く、ムニンノボタン、ムニンツツジ、ムニンノキなど50種近い植物がある。