実と名が違う造園植物

著者:ランドスケープアーキテクト 山本 紀久

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1.八重と一重

一重のヤマブキ
八重のヤマブキ
左:一重のヤマブキ
右:八重のヤマブキ

自分の求める植物と、実際に手に入れた植物が違っていた経験を持つ人は数多いとおもいます。特定の人や物を表わす「名前」は、生活習慣や言語や地域の異なる人々が、それぞれに使いやすい呼び方で用いられてきました。その結果、同一のものが異なる呼び名で使われることが多くなり、混乱が起きるのです。本稿では植物の呼び名で、実物と名前が間違えられやすい「造園用の植物」をとりあげていきます。

「八重咲き」は本来一重の花が、突然変異で雄しべが多くの花びらに変ったものなので、生殖機能はありません。自然の山で八重咲きの花を見ないのはこのためです。公園や庭園に多く使われているのは、挿木や接木によって人の手で増やしたものです。この一重と八重咲きがあいまいにされて、名前と実物が間違って流通していることが多いのです。ヤマブキは本来一重ですが、一般に市販されているのは大半がヤエヤマブキです。大田道潅の「七重八重、花は咲けども山吹の、みの一つだに、なきぞ悲しき」の有名な逸話が間違いを多くしているのかも知れません。クチナシも同じように間違われることが多いものの代表です。植木屋さんにクチナシを頼んだら、まず90%は八重咲き種が入ってきます。市場では、八重咲きのヤエクチナシやオオヤエクチナシがクチナシとして流通しているからです。サザンカも、特に公共緑化の現場で誤った種が入れられてしまう代表といってよいでしょう。大半が丈夫で扱いやすい真っ赤な八重咲きの、タチカンツバキが、白い清楚な一重のサザンカの替りに入ってきます。これらの間違いを回避するには、「ヤマブキ(一重咲き)」、「サザンカ(白、一重)」のような「但し書き」を付けることです。また園芸品種の多い種類には、必ず品種名を付ける習慣をつけて、貴方の望みの植物を確実に手に入れてください。

2.白花と色花

シロバナハマナス
ベニバナトキワマンサク(アカバナトキワマンサクとも呼ばれる)
上:シロバナハマナス
左:ベニバナトキワマンサク
(アカバナトキワマンサクとも呼ばれる)

シロバナハマナス、シロバナフジ、シロバナハギ、シロバナタンポポなどのように多くの植物に、基本となる花の色に対して、白花種が存在します。また基本となる花の色が白系の場合も、ベニバナトキワマンサク、ベニバナアセビ、ベニバナエゴノキ、などのように、別の色を持つ種が存在することも多くあります。このような種類では、花の咲いていない時期に入手する際に、花の色の違うものが入ってきてしまうケースがありますから、注意が必要です。花の写真が付けられていたり、花の咲いている時期に売られている、ガーデンセンターや花屋さんで入手する場合は間違いが少ないのですが、植木やさんや業者さんに一度に沢山の種類を注文する場合は、花が咲くまで花色を確かめようがありません。複数の花色を持つグループでは、種名を指定をした上で、花色も付記しておく必要があります。四季折々の繊細な彩りを大切にする庭づくりでの、色のとり違いは致命的です。私の経験でも、アセビの指定に対してベニバナアセビが、ジンチチョウゲの設計に対してシロバナジンチョウゲが入荷されて、苦い思いをしたことがあります。

3.種名と総称名

ベニバナトキワマンサク(アカバナトキワマンサクとも呼ばれる)
シロバナハマナス
左:カスミザクラ
右:イロハモミジ

ウメやスギ、モクレン、ヤマザクラは一つの種を表わす「和名」ですが、マツ、サクラ、ツツジ、ハギ、モミジはグループ全体を表わし、ツバキは品種群全体を、ヤエザクラは形質を表わす「総称名」です。少しでも植物に興味のある人なら、総称名で植物を注文することはないと思いますが、これらのグループは総称名が付くだけあって、多くの種や品種を持っていますから、その分だけ種の取り違いも起こりやすいのです。

例えばサクラの場合は、サクラという名前で市場に流通しているものもありますし、ヤマザクラを「山に生えるサクラ」と解釈して、カスミザクラやオオヤマザクラなどが入荷されるケースもあります。

モミジもトラブルが起きやすいものの一つです。日本の庭木を代表する、イロハモミジ、ヤマモミジ、オオモミジは見た目が似ているので、混同して扱われることが多いのです。いずれも日本に自生するカエデですが、葉の形や大きさ、生育地が異なります。イロハモミジは福島県以西の太平洋側と四国、九州に、ヤマモミジは青森県から島根県の日本海側と北海道、オオモミジは本州の太平洋側と北海道、四国、九州に生育しています。

自然環境の復元や郷土種の植栽などの要求が多くなってきている昨今、自生種の取り違えは致命的です。このような場合には、学名の付記は絶対条件といってよいでしょう。