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翻訳の世界 紹介記事

森へ ダリウス・キンゼイ写真集

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1984年5月号 翻訳の世界

「森」に憑かれた人々との共棲の日々 (田口孝吉氏)

『森へ』は、読む人の心をひきずりこむ。言葉の真の意味の「魅力」をもち、とりつく。

写真家D・キンゼイ夫妻の伝記が、『森へ』という表題を付され、「豪華写真集」として上梓された今、私は、著者のひとりD・ボーンの呟きを、感慨こめて繰り返してしまう。「あなたがたの作品が、今や多くの人々の所有となりますよ」と。夫妻は、私の心の中に長いあいだ棲んでいたのだから。

本書の翻訳は、アボック社社主・毛藤圀彦氏が「ニューヨークの書店の片隅で、偶然手に取り、樹木と樵夫の映像の迫力に衝撃を受けた」ことが始まりである。大学時代の友人である氏は、独等な植物研究者であり、そのときユリノキを追ってアメリカ中を旅していたのである。ユリノキにとりつかれていた人間ゆえに、森にとりつかれたダリウスと出会えたのだろう。「面白い本を見つけたから出版しようと思う」と電話で氏が熱っぽく話したのが六年も前のことだった。

三年前の冬、再び氏から電話があった。私は初めてキンゼイの作品を見た。すぐ不思議な魔力に捕縛された。樹という樹がすべて煙をあげ焼かれている山の写真は、戦場に累累と横たわらう兵士の死骸を連想させた。どの写真もぞっとするほど鮮明だった。翻訳をひきうけたとき、「魔力」までも預ってしまった。幾晩も、写真をながめ、写真を読みとろうとした。自分の遠い過去への果ない旅のようだった。

本文を読み始めると、二人の著者が見えてきた。ここにもD・キンゼイに衝撃を受け、とりつかれた人間がいた。ボーンは、森や樵夫のみを主人公とするのでなく、夫妻の世界を中心にするために三年の現地調査を行ない、ペチェックは、ガラス乾板の困難な現像に没頭していた。もうひとり憑依された男がいた。夫妻のコレクションを二十五年間保管し、然るべき人物に譲り渡す日を待ちつづけたJ・エバートである。誰もが憑かれてしまう。

本書が二層の読みを用意していることが判明した。「写真」と「夫妻の伝記」の読解である。この二層構造は、著者の巧妙な仕掛である。それは五千点から二百点を選んだ、すなわち、四千八百点を捨てた著者の視点である。言うまでもないが、『森へ』は、キンゼイの作品を通した二人の著者の作品なのである。

翻訳のあいだ、何度もダリウスと話しタピサと言葉を交わした。翻訳から離れた現実生活でも、「ダリウスならここでどうするか」と自問していた。禁欲的な眼を心のうちにもつことは、私にとって、それほど居心地が良いわけではない。ダリウスと一緒にレンズを通して被写体を見ながら、作業をつづけた。生前の夫妻を知る人々がすべて、老齢にあることを念頭に置いた。唯一キンゼイ・ジュニアとの交信はしっくりしなかったが、春になって翻訳を終えた。予測したより遙かに枚数が多かった。「伝記」なのだから当然だったが。

ところが、出版の方に難産の徴候があらわれた「版権が取れない」という。著者たちは申し出を拒絶し無視しつづけた。一年以上の時が流れた。本にならないなと思った。ただ、「出版されなくとも、夫妻と著者たちと共棲した日々は劇的だったのだから、良しとすべし」と本当に思っていた。

人生とは不思議なものだ。著者たちが四版を東京で印刷するために来日したのだ。難行したが直接会う機会をもてた。 一生懸命話した。昼夜印刷という日本のシステムに疲労困憊した様子で上機嫌とは見えなかった二人の顔が徐々に生きいきしてきた。遂にボーンがこう言った。 「アボック社の真摯な態度も分かった。タグチは、私の知る限り最上の読者だ」と。出版の同意が即座に得られた。

次に出会ったとき、ボーンもペチェックも私の感想を細かく知りたがった。十年来の知己のように著者と共感を率直に分けあえた。私の質問に答えて、ボーンが言った。「キンゼイ・ジュニアは精神を病んでいた」と。しっくりしない交信の意味が判った。

それから一年して『森へ』は上梓された。中上健次氏の解説もいただけた。出版されると多くの新聞、雑誌、週刊誌に取りあげていただいた。大旨「森と巨木伐採の写真集」として好意的に論じられている。ただ、A紙の書評では訳者名がなく、N紙の場合、写真家と解説者名だけで、著者名も記載されてない。

『森へ』は二層の読解を期待している。

翻訳刊行の全体に関係した訳者として、そのあたりのエピソードを打ち明けてみた。


D・ボーン/R・ペチェック 『森へ』 アボック社出版局

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