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「アマゾンの果てまでも」~植物学者・橋本梧郎、84歳の挑戦~

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1997年9月15日 NHKエデュケーショナル放映

<ねらい>

日本をはじめ、各国の植物学者から秘かに注目されている老人がいる。

橋本梧郎 84歳。1934年、21歳の時に単身渡伯して以来、一貫して在野の植物学者として、60年以上に渡って、現地で伝統医学に使われる草根木皮を収集・分類・整理してきた。

年に数万キロのフィールドワークをこなしてきた橋本が、現在までにブラジルの各地から集めてきた植物標本は実に15方点を越える。世界に類が無く、二度と再現不能とまで言われる膨大な標本と共に、独力で築き上げてきた構本の業績は、金や牧野富太郎に匹敵するとまで言われている。 ブラジルは薬草を始めとする貴重な植物の宝庫であり、その種類は60万種とも70万種とも推定されている。遺伝資源を含んだ戦略物資として植物が扱われるバイオテクノロジーの時代に入り、これまで、故国日本では殆ど知られることのなかった橋本の業績は、ますます重みを増している。 番組では、橋本の新たなるフィールドワークに同行し、地球の裏側で独り気を吐く老日本人の気骨、60年以上首尾一貫した愚直なまでの生き方を通して、人と自然の係わりを見つめ直す。


<内容・構成>

少年時代~日本脱出

16歳から独学で植物採集を始めた橋本は、秘かに師と仰ぐ牧野富太郎に標本を送り、鑑定番号を送られた日のことを今でも鮮明に覚えている。4000点を越える当時の橋本の標本は戦災を免れ今も東京科学博物館に保存されている。

当晩の軍国主義に嫌悪感を感じていた昭和8年、「植物学雑誌」に掲載された「マルチウスの植物誌」の抜粋を読んで橋本はプラジル渡航を決意した。この「植物誌」はドイツが威信をかけて取り組んだ全15巻40冊の国家的プロジェクトで、完成までに66年の歳月が費やされたという。後にサンパウロの図奮館で橋本が見た実物は、一冊が15キロ、全巻を並べると幅3メートル以上あり閲覧するのに廊下一杯に広げなければならなかった。

植物分類学の専門家によれば、橋本の60年に渡る孤高の作業は、こうした国家的事業の域に達しているという。

サンパウロ植物標本館

それまで「赤貧」に甘んじ、ガレージの二階に貴重な標本と共に間借りしていた橋本だが、見かねた有志の援助…(※後文不明)…その一方で橋本は標本の整理に黙々と取り組んでいる。

橋本コレクションが世界的に貴重とされているのは、標本と併せてその種子が保存されているということだ。 関係者が橋本の標本に熱い視線を送る理由はここにある。標本の中には今パラナ河のダム工事で今は完全に水没した原野から採集した植物もあり、うち40種は、種子は橋本の元にしか保存されてないという。

ブラジルは国土の75%が森林で、今なお、焼畑による大規模な耕地開発が続いている。橋本が長年暮らすサンバウロ州に限っても、この50年で森林面積はかつての3%に激減したという。

ブラジルの森に眠っているのが、人類にとって未知の可能性に溢れた貴重な遺伝子資源でもあることが理解されてきたのは、ようやくここ最近のことである。人間にどんな恵みをもたらしてくれるかも解らない内に、どんどん貴重な植物が失われてゆく現状に橋本は大きな危惧を感じている。

フィールドワーク

若い仲間と雨期を避けて、一回1~3週間のスケジュールで歩く。何を訊ねても、分類、学名、生態過去の分布地など即座に答えが返ってくる様に、日本からの研究者は一様に仰天する。橋本が「心当たりないなあ」と呟いた時は、大抵、新種なのだ。ブラジルの植物は無尽蔵の感があり、橋本は毎年の様に新種に出会っているという。

数年前に橋本が発見したペチュニアの一種は、日本の業者によって改良され、ヨーロッパで年間4000万本を売上る一大商品に成長した。サンパウロ郊外で確認されたヒメマツタケの一種は抗ガン性があるとされ、日本やオランダの学習が競って研究に訪れるという。橋本の長年の知識は、業者からすれば、正に宝の山なのである。

橋本は長年農業関係の公務員として働いていたため、その調査は専ら任地の近辺に限られていた。念願のアマゾン奥地に足を踏み入れることが出来たのは定年退職後で、その時、橋本は既に70歳になっていた。自分の残り時間を睨みながらも「本格的な調査はまだまだこれからだ」と橋本は言う。

ブラジルの伝統医薬

橋本は今年2月、これまでのコレクションから2168種を収録した世界にも類の無い「プラジル産薬用植物事典」を東京で刊行した。

中国と並び、ブラジルは薬草の一大宝庫。現在でも、医薬品が手に入りにくい奥地や、医療費が払えない低所得層が多い地域では、伝統の薬草が今でも普通の医療薬として使われている。

ブラジル最大の薬草市場であるアマゾン河口のマナウスでは、橋本は300種を越える薬草を確認しており、中には橋本にも判別のつかない薬草もあったという。

薬草の大地ブラジルの懐はまだまだ深い。

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