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眼光にこもる無言のメッセージ

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1984年5月15日 ブルータス

先月、まだ雪におおわれているユタ州のソルト・レイク・シティへ行ったとき、路上で初老のインディアンと会った。浮浪者だった。米軍放出品らしいカーキ色のよれよれのコートを着ていた。「ミー、インディオ。ノー、インディアン」と、たどたどしく言い、25セントくれ、と手を差出した。見つめ返すと、おれはアパッチ族だと名乗った。嘘だな……と私は思った。 アパッチ族はアリゾナやニューメキシコ州に住んでいるはずだ。たぶん、部族の名誉だけは汚したくなくて嘘をついたのだろう。明らかにアルコール中毒だった。「金はやらない。酒が欲しければ車の中にバーボンがあるからそれをあげよう」と私は言った。すると初老のインディアンは「酒ならある」とポケットから小瓶を出し「飲もう!」と言った。夜の路上に突っ立て、二人でラッパ飲みした。その直前、アル中のインディアンは貴重なウイスキーを数滴、路上にこぼした。

私は、はっとした。作法なのだ。インディアンはものを食べたり水を飲んだりするとき、かならず小量をこぼして、母なる大地に捧げるのだ。

いま、東京から送られてきた写真集『北米インディアン悲詩』を開きながら、そのアル中のインディアンのことが頭から離れない。 以前、ナヴァホ族の地に車をとめたとき、同じナヴァホの女性が恥ずかしそうに私に言った。 「タイヤを盗まれないよう気をつけてね。バッテリーも盗まれるから……」

また、道路脇にへたり込んで泥酔してるインディアンの女を送り届けると、馬小屋よりひどいボロ家から亭主や娘たちが飛び出してきて「3ドルくれ」とせがまれた。断ると、「娘を一人もらってくれ」と泣きつかれた。そうしたインディアンたちの姿はこの写真集には一枚もない。かつて、圧倒的優性の白人にゲリラ戦を挑み、首を刎ねられ、25年間プリマスの広場にさらしものにされたインディアンの勇士を、結局見殺しにした他のインディアンたちの姿も見当たらない。語りだせばきりがない。何年か前、ナヴァホ族とホピ族が共存している地域でウラン鉱が発見されたとき、ホピ族は聖地を売るまいと抵抗し、圧倒的多数のナヴァホ族は聖地を利権に変え、いまウランを掘りつづけている。そうしたいまの現実、都市で浮浪者となっているアル中のインディアンが、なおかつ、数滴のウイスキーを地にこぼし捧げる現実―それに繋がる視線の奥行も感じられない。

以上で前置を終える。

白人の眼になにかが欠如していることを百も承知のうえで、なお余りあるこの写真集の素晴しさについて語りたい。誉めたり、けなしたり、バランスをとっているのではない。掛け値なしに断言できる。この写真集は、本当に素晴らしい!

ここに写っているインディアンたちの世界は、写真家の作為などとうに超えている。このインディアンたちの顔を、眼を、よく見てほしい。ここには決意がある。ふつうインディアンは写真を撮られることを極端に毛嫌いする。現在でも、ほとんどの部族は祭や儀式のとき決して写真を撮らせない。ホピ族の聖地などではカメラをぶらさげているだけでひと騒ぎ起こる。写真は盗むからだ。インディアンと世界との交感を盗む。聖性を盗む。写真を撮られることは文字通り魂をぬきとられることだ。それは事実だ。だが、ここでインディアンの男たちは決意してレンズに身をさらし、無言のメッセージを放射している。

そのメッセージについて語ることは難しい。口にした瞬間、言葉は禁忌を犯す。嘘になる。

大地にトウモロコシの粉を撒く男、岩山の頂にあるアコマの村、古い泉、ズニ族の男たち、ホピ族の台地、ワルピ村、蛇の踊り。ここに写されている土地や儀式を私はいくつか肉眼で見た。アリゾナ、ニューメキシコ、ユタ、オレゴン、コロラドと、インディアンたちの土地を巡り歩いてきた。偶然の出会いからプエブロ族の秘儀に招かれたこともある。闇の中で地にあぐらをかいて坐った。夜明けに、長老のインディアンが「なにも語るな、死ぬまで胸にしまっておけ」と私に言った。もう一人の老インディアンは「お前が見たものを人人に伝えなさい」と言った。

たぶん語るべきではないのだろう、インディアンの内的世界を共に生きようとするなら。だが私は東京からの国際電話で、この写真集の書評をひき受けてしまった。矛盾するが、インディアンについてもっともっと語りたかったのだ。それにポスターなどで断片的にしか見たことのないカーティスの写真をまとめて見たかった。そして、見たとたん、なにも語れなくなってしまった。ただ一つ、伝言をしかと伝えるような気持ちで言いたいことがある。

決意してレンズに身をさらしたインディアンたちの無言のメッセージを受信してほしい。できれば一晩ぐらいかけて、じっくりと眺めてほしい。深夜、一人、ラジオのダイヤルを根気よく微妙に回すように波長を合わせさえすれば、インディアンの声が聴こえるはずだ。インディアンの眼に映る世界の奥行が視えると思う。それに私たちは同じモンゴロイド人種である。

この写真集を抱えてニューヨークの街を歩いている時「ちょっと見せてくれない?」と何度か声をかけられた。表紙の「ズニ族の首長」の眼光がニューヨーカーたちを射すくめ、揺さぶるらしい。イースト・ヴィレッジの行きつけの店で写真集をひろげながらこの原稿を書いていると、ウェイトレスや他の客たちが肩ごしに写真をのぞき込み、“Wonderful, amazing”と口々に呟き、立ち去ろうとしない。そんな力がある写真集だ。

最後に一言。インディアンは、「滅びゆく民」ではない。次の酋長だと目されているホピ族の青年は私にこう言った。 「生き残るのは我々だ、かれらはただ通り過ぎていくだけだ」


『北米インディアン悲詩』監修/富田虎男、解説/中上健次、アボック社。
撮影者エドワード・カーティス(1868~1952)は約30年の歳月を費し、ミシシッピー川以西のインディアン全部族の写真と文による記録 『The North AmericanIndian』 全20巻を完成させた。本書はその別冊ポートフォリオの作品、約100点の抜粋。60年代後半に再注目されたカーティスだが、一方でその撮影テーマ「滅びゆく民」をめぐり、さまざまな論議も起こっている



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