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第十二話 植物の情報ストック

欧米の植物園の大半と、アジアではカルカッタ、シンガポール、ボゴール植物園など歴史の古い大きな植物園には、付設の植物標本館(ハーバリウム)がある。

植物標本館の中の標本室には、箪子のような金属製や木製のキャビネット(標本ケース)が規則正しく並んでいる。扉を開くと、中に何段もの棚があって、きちんと分類整理された腊葉標本が収めてある。植物園によっては、標本ケースの代わりに標本を入れた丈夫な箱を棚に並べているところもある。

植物のすべてを語る腊葉標本

腊葉標本というのは、いわゆる押し葉式の植物の乾燥標本だが、単なる趣味の押し花や押し葉とは全く違う。植物学者が作る標本は、花だけでなく、葉、茎、それに根まで着いていて植物の形態が完全にそろったものである。そして、その標本に附けられたラベルが重要な意味をもっている。

ラベルには、その標本の採集場所の地理、生態をはじめ、採集年月日、花や実の時期、色、その産地での植物の用途など、その植物に関するあらゆるデータが記入されている。

また、同じ種の植物を各地から多数の標本として集め、その種の分布状態や変異などがすぐにわかるようにしてある。このような情報をもたない標本は、「押し葉」としての価値しかないといえる。

証拠標本とよばれる標本がある。

たとえば、種子を採集して貯蔵庫に保存するとき、種子を採った植物を採集して腊葉としたものは、その種子についての証拠標本で、その種子が発芽して成長する植物はその腊葉に見られる種であることを証明している。

植物の同定は、それを行った人びとにより異る事が多いので、証拠標本は大切である。付記された細かいデータも大変重要である。薬用植物を集めて成分分析をするときも、証拠標本を作っておく。正しい植物名を知る必要に加えて、その薬用植物のサンプルを再び採集する必要が生じた時に、こういう標本が極めて必要になる。植物園内で栽培する植物についても、すべて証拠標本があり、標本庫に収めてある。

最も重要な標本は、基準(タイプ)標本とよばれる標本である。これは、その植物が初めて研究され、新種などとして発表されたときに用いられた証拠標本で、その植物一種については世界に一枚または一セットしかない。

幕末のころ、ペリー提督の率いる黒船艦隊が何回か日本を訪れたが、この船に植物採集家が乗っていて、下田や函館で植物採集をした。これらの植物は、当時のハーバード大学のグレー(Asa Gray)教授によって研究され、発表された。そのときの標本が、ニューヨーク植物園の標本館のタイプ標本室にも完全に残っていて、下田産のドクウツギ、ホンモンジスゲ、函館産のクリンソウなどが見られる。

標本収納は殺虫・殺菌をしてから

ニューヨーク植物園の標本館の主任は、キューレーター(管理研究官)が務め、現在はパトリシア・ホルムグレンという女性である。彼女は約28年前、アメリカ西海岸のワシントン大学で理学博士の学位を取得すると同時に、ニューヨーク植物園の標本館に入った。

標本館の仕事は、野外で採集された標本や、同定や交換のために送られてくる標本を受け入れるところから始まる。数人の技手(ハーバリウム・スペシャリスト)がいて、標本の小包や荷物の山をさばいている。ここで開封され記録された標本は、燻蒸室に入れられて殺虫・殺菌される。

これらの標本は普通、挟み紙とよばれる新聞紙などに挟まれているだけなので、燻蒸後に台紙に貼るため、標本貼付室(マウンティング・ルーム)に送られる。ここには技手が一人いるが、ほかに八人許の熟練した女性がいて、一日一人平均約50枚を処理する。貼られた標本は、隣の仕分け室に運ばれる。

仕分け室の中は、郵便局の仕分け室に似ていて、多くの棚があり、標本は科ごとに分けられる。この作業は、だいたいマスター(修士)の学位のある植物専門技手が行うが、近頃では博士コースの大学院生が、勉強と収入の一石二鳥を兼ねて、アルバイトとして行うことが多い。

他の標本館に寄贈したり交換したりする標本も、この仕分け室でそれぞれの行き先別に分けられる。科別に仕分けされた標本は、研究者のところへ運ばれ、研究され、名前がつけられたりすることになる。

標本ケースの並ぶ標本室では、プラスキ君、カルンキ嬢、ウェッター君などの技手と、大学院生のアルバイトを含め22人という大勢の人が、仕分け室や研究室から回ってくる同定済みの標本を、標本箪子の棚の中のファイルに収納する仕事をしている。間違えて収納すると、探し出すことは事実上不可能で、その標本は役に立たなくなる。図書室の司書が、書物を分類して書架の正しい場所に納めるに類似した作業である。

この職員をファイラーといい、手押し車で標本を運び、標本をファイルしながら、誤同定と思われる標本を研究室に回したり、傷ついた標本を修復に回したり、他の研究機関へ貸し出す標本を取り出すなど、手間のかかる仕事をしている。

パトリシア主任は、就任当初はファイラーの仕事も行い、その後このような仕事の管理職をしながら、最近オランダのウトレクト標本館のF・A・スタフルー(Stafleu)博士とともにIndex Herbariorumと云う、世界中の植物標本館の便覧を作った。標本館の所在地、所蔵標本数、コレクションの種類や性質、研究官の名前や専門分野などが細かく記録されている。

それによると、世界最大級の標本庫は、イギリスの王立キュー植物園の600万点あまり、ニューヨーク植物園の580万点あまり、スミソニアン研究所の440万点、フランスのパリ自然史科学博物館の700万点、ソ連レニングラードのコマロフ植物研究所の580万点など、すべて欧米に集中している。

アジアでは、中国北京の中国科学院植物研究所の180万点とボゴール植物園の160万点がトップの二つで、日本最大の東大理学部標本館でも145万点、他にインドのカルカッタ植物園の130万点と、植物のデータバンクは非常に小さい。

『植物園の話』コンテンツ一覧▼ 目次(青字)をクリックすると、各文をご覧いただけます

本書まえがき

第一話ニューヨーク植物園
第二話古代エジプトに逆上る歴史
第三話温室は華麗なシンボル
第四話もうひとつの顔・・・・・・花壇と並木
第五話さまざまな「ガーデンズ」
第六話特殊な植物園
第七話ニューヨーク植物園の四季
第八話植物園の舞台裏
第九話植物園と大学
第十話植物を集める
第十一話植物を保存する
第十二話植物の情報ストック
第十三話植物園での植物研究
第十四話社会生活とのつながり
第十五話教育的な役割
第十六話憩いの場として
第十七話娯楽に公開されるケース
第十八話両陛下をお迎えして
第十九話菊人形と菊花展―第二回目の特別行事
第二十話ニューヨーク植物園のゲストブック
第二十一話ヨーロッパの植物園
第二十二話アジアの植物園
第二十三話北アメリカの植物園
第二十四話中・南米の植物園
第二十五話オセアニアとアフリカ
第二十六話植物園の在りかた

本書あとがき

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