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第十四話 社会生活とのつながり

私は、かれこれ二十五年ものあいだ、米国財務省税関局のアドヴァイザー(顧問)業務を兼務していた。農業省管轄の植物防疫とは違った意味で、税関でも、植物を同定する必要があるからである。

ニューヨーク港やサンフランシスコの貨物港であるオークランド港、ボストン港、ボルチモア港、米国南部のヒューストン港やサバナ港などから、米国に輸入される植物製品が、ニューヨーク植物園内の、当時私が所長をしていたリーバーマン実験所に送られてくる。

リーバーマン実験所は、植物解剖学、細胞遺伝学、花粉学などの研究室をもち、植物の細胞や組織を電子顕微鏡や光学顕微鏡を使って研究している実験所である。ここに送られてきた植物製品は、その原料植物が何であるかが調べられ、同定される。

関税で絶滅から救われるヤシ類

同定される物品は、漢方薬、パナマ帽や麦わら帽、籐や木製の家具、タケやヤシの葉で作った夏物のハンドバック、籠、縄やロープ、ナイフの柄やステッキなど、じつに多種多様である。米国税関がなぜこのような輸入品のひとつひとつについて、その原材料名を必要とするかというと、米国の関税法では原材料の種類によって関税率が異なるからである。

同じ箒でも、ホウキモロコシ製の箒のほうが竹箒よりも関税率が高い。これは、ホウキモロコシを原料とするアメリカの箒産業を保護するためである。竹箒は、アメリカの箒産業には直接の競合関係をもっていない。

また、籐製品の関税率は、他の蔓植物やタケを材料とする製品より高い。これは、籐を採るカラムス属などの野生のヤシ類は乱伐すると絶滅する恐れがあるので、税率を上げることで値段を上げ、製品の売れ行きを迎えて、間接的に籐植物を守ろうとしているのである。概して、絶滅の恐れがある植物の製品には高い税率が課せられている。

米国税関は、優秀な化学実験所は持っているものの、植物の内部構造を調べる部門はないので、その分野に強いニューヨーク植物園やリーバーマン実験所と協力体制をとっているのである。

電子顕微鏡が事件を解明

数年前のある日、ニューヨーク州警察の刑事が、殺人事件の死体に付いていたという粉を持って実験所を訪れた。その粉がマリフアナの粉なのか、ビールの原料であるホップの粉なのかを知りたいと云う。マリフアナの原料の大麻もホップも、同じクワ科に属していてよく似ている。電子顕微鏡で調べたところ、その粉の小突起は表面が平滑で瘤状ではないことから、ホップと同定し、その線から事件は解決した。

また、米国連邦捜査局(FBI)の捜査官が二人やってきた。死体がニューヨークのラグアルディア空港近くに捨てられていて、その靴についていた草の断片を持ってきたと云う。断片を検定したところ、そのイネ科の草は米国南部にしか生えていないことが判明し、死体が殺害現場から遠く運ばれてきたことが確認されたのである。

このように植物園には、警察の捜査の一翼を担う役割もある。毒物関係の役所である「ポイズン・コントロール・センター」も、実験所を利用している常連のひとつである。

かねて、英国の王立キュー植物園のジョドレル実験所を訪れ、所長のメトカルフ博士と雑談していたら、そこでも英国税関に同じような業務の協力をしている、という話が出た。

キュー植物園は王(国)立だから、このような協力は政府機関相互の関係だが、ニューヨーク植物園は法人部分は私立なので、官民間の協力ということになり、米国政府は予算措置を講じている。その後、米国財務省とニューヨーク植物園が協力して、植物製品の原材料植物同定のためのマニュアルを作る計画が立ち上がった。

植物産業に欠かせない植物園

作物の新品種を作出したり、これまで注目されていなかった低利用作物を開発して作物の多様化を図ったりすることは、植物産業振興のために重要である。近年、有用植物の新品種を作出すると、その権利が植物の品種登録や特許によって保護されるようになったので、新品種の作出は、その経済的な意義がより深くなった。

新品種を作出するためには、その材料植物の収集と研究が不可欠である。そしてそれは、植物園が専門とする分野であり、植物園のもっている標本データなしには行えない。ニューヨーク植物園の植物データバンクは、米国農業省や各大学に限らず、広く全米の植物産業界に、基礎的なデータを提供してきた。

植物園と企業体との共同研究開発プロジェクトは、でんぷん、油料、薬用植物など広範囲にわたり、材料植物の探索収集は植物園が、利用上の諸分析研究は企業体が分担し、これに農業省や大学が加わって育種を行い、最後のマーケティングは企業体が行う、といった産官学の協力のもとに進められていて、これにより、強力な植物産業立国が実現している。

現在のアメリカの重要な輸出作物であるダイズは、五十余年前にダイズの重要性に着目し、五万ドルの費用でアジア各地のダイズを集めて研究し、新品種を作出させた米国農業省のプロジェクトの成果である。その結果、アメリカのダイズ栽培は、ひとつの巨大な産業の地位を占め、輸出によって10億ドルの利益をもたらしているのである。

『植物園の話』コンテンツ一覧▼ 目次(青字)をクリックすると、各文をご覧いただけます

本書まえがき

第一話ニューヨーク植物園
第二話古代エジプトに逆上る歴史
第三話温室は華麗なシンボル
第四話もうひとつの顔・・・・・・花壇と並木
第五話さまざまな「ガーデンズ」
第六話特殊な植物園
第七話ニューヨーク植物園の四季
第八話植物園の舞台裏
第九話植物園と大学
第十話植物を集める
第十一話植物を保存する
第十二話植物の情報ストック
第十三話植物園での植物研究
第十四話社会生活とのつながり
第十五話教育的な役割
第十六話憩いの場として
第十七話娯楽に公開されるケース
第十八話両陛下をお迎えして
第十九話菊人形と菊花展―第二回目の特別行事
第二十話ニューヨーク植物園のゲストブック
第二十一話ヨーロッパの植物園
第二十二話アジアの植物園
第二十三話北アメリカの植物園
第二十四話中・南米の植物園
第二十五話オセアニアとアフリカ
第二十六話植物園の在りかた

本書あとがき

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