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「チャタレイ夫人の恋人」に現れた植物

ローレンス著「チャタレイ夫人の恋人」の日本語訳は出版界未曽有のセンセイションをまき起し、裁判沙汰になったことは周知のことである。東邦大学の久内清孝氏は、この小説に多くの植物があつかわれていることに注目し、啓明社発行の英文複製版からその植物の英名をピックアップし、その学名を調べて対照表をつくり、謄写印刷にしてわれわれに配布した。

私はこの対照表から、伊藤整氏の訳本では原著の植物英名がどう訳されているかをしらべ、学界で扱われている和名と比較してみたが、かなりずれていることを知った。これは勿論、訳者のあげ足をとるものでもなければ誤訳をあざ笑うのでもない。ただ、植物がたくさんでてくるローレンスの小説の和訳で、植物の和名がどの程度正確であるかを知れば他の作家の小説でもおよその類推がつくであろうと思ったからこんな物好きをやってみただけである。もしこれが一般翻訳者諸氏の参考になれば幸いである。

「チャタレイ夫人の恋人」にでてくる植物はざっと三九科六八種である。ざっとというのは、見のがしたものもあろうし、同じ英名が二種以上の植物を指す場合もあるからである。野生のものが大部分であるが、栽培のものもあれば、食用のものもある。科別にしてみると、バラ科六種、サクラソウ科、ユリ科各四種、キンポウゲ科、ナデシコ科、キク科、スイカズラ科、イネ科、マツ科各三種、ミカン科、マメ科、クワ科、ブナ科、ヒガンバナ科、各二種、あと二五科が各一種となっている。

一番多くでてくる植物はBlue bell(ブルーベル)で、一二回(同頁に二回以上でても一回とする。以下同じ)、Hazel(ヘーゼル)が一〇回、Oak(オーク)が八回以上、Forget me not(フォアゲットミーナット)が七回、Hyacinth(ハイアシンス)、Primrose(プリムローズ)、Violet(バイオレット)、Columbine(コランバイン)が各五回、Bracken(ブレークン)、Campion(カンピオン)、Daffodil(ダフォディル)が各四回、Anemone(アネモネ)、Creeping jenny(クリーピングジェニー)、Beech(ビーチ)、Crocus(クロッカス)、Fir(ファー)、Bramble(ブランブル)が各三回となっている。

少し例をあげて、感想をのべてみよう。

  1. Hazelを榛と訳している。これを「はしばみ」と読める人が読者の何パーセントいるだろうか。正しくは「むらさきはしばみ」であるが、そこまで厳密にいいたくなければ、単に「はしばみ」でよいと思う。 これに類するものは、(a)Columbineの苧環、(b)Beechの山毛欅、(c)Crocusの蕃紅花、(d)Daffodilの水仙、(e)Dandelionの蒲公英、(f)Elderの接骨木、(g)Larchの落葉松、(h)Mistletoeの寄生木、(i)Dog's mercuryの山藍、(j)Violetの菫、(k)Walnutの胡桃などである。これらは正しくいえば、(a)はせいようおだまき、(b)は欧州ぶな、(c)ははなさふらん、(d)はらっぱずいせん、(e)は西洋たんぽぽ、(f)は黒実にわとこ、(g)は洋種からまつ、(h)は白実やどりぎ、(i)は西洋やまあい、(j)はにおいすみれ、(k)はぺるしゃぐるみと呼ぶべきである。しかし、文学作品であるからそこまできびしくいわずとも、せめて、漢字をやめて、おだまき、ぶな、さふらん、すいせん、たんぽぽ、にわとこ、からまつ、やどりぎ、やまあい、すみれ、くるみと仮名にして貰いたいものだ。
  2. Auriculas, Primroseはどちらも桜草と訳されているが、これも正しくは、前者はあつばさくらそう、後者はいちげざくらで、全く違う種類である。このように違う種類のものを単に桜草としてしまうのは、もし原文でそれぞれの効果をねらい、違うニュアンスがかくされているならば、全く意味のない文章になるおそれがある。「わが国は草をさくらに咲きにけり」の日本の桜草とはだいぶ趣のちがうものである。Cowslipも同じさくらそうの仲間で、これは菫花九輪草と訳されているが、正しくはきばなくりんざくら、別名せいようさくらそうというべきものである。Anemone, Wood anemone, Winbflowerはみなアネモネとなっているが、ふつう庭につくられるアネモネではなく、「やぶいちげ」である。
  3. 桜草と対蹠的なものはBlue bellである。これは一三〇頁から二二九頁まではヒヤシンス、二六二頁から二七〇頁までは釣鐘草と訳されている。しらべてみると、ブルーベルにはゆり科のツルボ属と、ききょう科のほたるぶくろ属のものがあり、学名がなければわれわれにはどちらかわからないのに、訳者はちゃんと両方に訳しわけている。これには感心した。
  4. Brambleを黒苺と訳す。これには「せいようやぶいちご」の和名がある。学名の種名は灌木状のという意味があるので「きいちご」といった方が無難である。Hollyを柊と訳している。これは「ひいらぎ」と読ませるつもりであろうが、日本のひいらぎは全く科のちがうもくせい科のもので、もちのき科に属するHollyはせいようひいらぎといった方がよい。Guelder roseを葎と訳しているが、これをどう読ませるだろう。ふつうなら「むぐら」と読まれるだろう。実は、日本の「かんぼく」に似たすいかずら科の「洋種かんぼく」であるから、むぐらと読まれたら何のことか訳がわからなくなる。
  5. Bulrushを葦としている。これもふつうは、ヨシかアシと読まれるが、全く別のもので、かやつりぐさ科の「ふとい」または「おおふとい」の類である。Firを樅とするのも誤りである。一般にもみの木の類を指すのであるが、場所が英国であるからScotch pine即ち「欧州あかまつ」と解すべきで、日本のあかまつに似ているから、あかまつならがまんできる。Yewを水松とするのも困る。水松はひのき科のもので、正しくは「西洋いちい」、略していちいとしたいものである。
  6. Snow dropを雪片と訳したのは不注意である。これは植物で、ひがんばな科の「まつゆきそう」または「ゆきのはな」といわれるものである。そう訳してはじめて意味がとおると思う(原文と訳文をひいて説明した分は省略する)。
  7. Snow ballを雪球としている。「森番の醜聞はまだ続いていて、雪球みたいにだんだん大きくなって行きます」の雪球を植物として意味が通り、その方がしゃれている。前に述べた「洋種かんぼく」の花が全部不登花になり「あじさい」のようなまるい花序になったもので、蕾のときは小さいが、開花につれて白い大きな球になるのでSnow ballの名がある。和名を「てまりかんぼく」という。
  8. 啓明社版の巻末の註釈表中に、Catkin=amentにまつり花という訳語がつけられているが、これははしばみなどの花穂のことで、まつり花など植物の名ではない。

以上、にくまれ口をきいたが、要するに、欧文の和訳をするとき植物の名に慎重な注意をして、苧環とか榛とか接骨木などの漢字をやめて仮名にしてもらいたいと希望するもので、訳者をあげつらう訳ではないのである。

(読書春秋・一九五四年二月)

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