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第八話 植物園の舞台裏

六月初めの一日、ニューヨーク植物園で十年以上もガーデナーとして働いているトニーの朝は早かった。七時前に出勤して、増殖温室で育てている数百鉢のオニユリに潅水する。病気の出ている鉢だとか、虫害の発生している鉢は、取り除いてしまう。

水やりが終わると、新しく苗を植える小鉢のための土づくりをする。畑土、腐葉土、砂などを、決まった割合に混ぜ、何百という鉢に入れて苗を植えると、昼が近い。温室内のベンチで、サンドイッチとコーヒーの昼食をとる。ひと休みしたあと、オニユリの鉢を展示温室にトラックで運び込む。展示温室の主任園芸師の指示のもとに、他の草木と一緒に美しく配置すると、翌日からのフラワーショーの準備が終わることになる。午後三時すぎ、へとへとに疲れたトニーは、シャワーを浴びて帰宅する。

同じくガーデナーのフランクは、この日、芝生や花壇の仕事を早朝からやっていた。私が出勤する九時半ごろには、彼はすでに研究棟の前の広い芝生を芝刈り機できれいに刈り込み、花の終わった花壇のチューリップを引き抜いて束にし、積み上げている。昼ごろまでには、芝生と花壇の整備がすみ、午後は、前の日までに水を抜いて掃除しておいた池に水を張り、スイレンを定植する。

草花や花木を育て殖す

増殖温室や屋外の圃場は、植物園の各所に植栽する草花や花木を育て、増殖している所で、多くのガーデナーが忙しく働いている。

春のバルブショー(球根ショー)のためのユリなどは、冬の終わりごろから増殖温室で数百鉢も育てられるし、秋の菊花展のキクも、すでに前年の秋から増殖温室の中、また夏季は屋外の圃場に持ち出されて育てられている。菊花展が展示温室で催されているころ、増殖温室では、何千鉢というポインセチアが、クリスマスショーのために用意されている。

大学の園芸学部とか園芸学校を出た園芸師が、このようなフラワーショーの計画を立てる。また、園芸師は、各自の専門によって、温室内のサボテンと多肉植物室、ヤシ室、屋外のロックガーデン、自然園など、各区画のマネージメントを受け持っており、ガーデナーを指揮して、それぞれの区画を常に美しく保守し、改善している。

園芸界の試験管ベイビー

園芸師の仕事には、植物をふやし育てるほか、植物の改良や新品種を作出する研究的な仕事がある。こういう仕事を育種という。突然変異型のなかから色違いの花とか、一重から八重に変わった花形の植物を選び出してふやしたり、2つの種や品種をかけ合わせて、今までとは形質の異なる雑種を作ったりする。病虫害に強い品種を作り出す実験や研究も行われる。

最近では、従来の、種子によって新品種をふやす方法のほかに、生長点の細胞や組織を人工的に試験管やフラスコで培養して、植物のクローンを作る方法が開発され、速やか、かつ大量に苗を作ることができるようになった。種子から仕立てると何年もかかったランの苗なども、半年ぐらいでかなり大きく育てることができるようになった。

シンガポール植物園やスリランカのペラデニヤ植物園では、生長点培養法(メリクローン)によって優れた雑種のラン苗を大量に作り、国外へ輸出しているほどである。

コスト高だった太陽熱

温室の暖房を行うのがパワーハウスで、ボイラーがある。オイルショックのとき危機が訪れた。ニューヨーク植物園では十分な石油が買えず、冬に熱帯植物の一部を枯らしてしまった。そこで、太陽熱を用いるソーラーエネルギー方式と、おがくずや農業廃棄物をタンクで発酵させてメタンガスを得て、これを燃料にする方式の二通りが、石油に代わるものとして研究・実験された。

ソーラーエネルギーによる方式は、冬の効率は大変よいのだが、夏になり、温湯の利用が減るにつれて不経済になり、結局、石油によるよりも維持費が高くつくことがわかった。メタンガスによる方式は、三年ぐらいで設備費の償却はできるが、おがくずなどを恒常的に入手する方法が難かしいことから、見合わされてしまった。そんなわけで、今でも、石油ボイラーが相変わらず用いられている。パワーハウスには、ボイラーマンのほかに、水道係と電気工がいて、園内の保守整備にあたっている。

大道具、小道具を作るカメロさん

ニューヨーク植物園には、パワーハウスとは別に、工作部の入った大工小屋が一軒ある。ここには、カメロさんという六十歳に近いイタリア人の大工頭がいて、数人の大工を使って、鉢用の棚、ベンチ、標識、柵などの製作や修理に忙しい。フラワーショーで使うオランダ風車とか中国風茶亭などの大道具も、ここで作られる。このような工作場はオーストラリアのシドニー植物園にも立派なものがあった。

パトロール、つまり警備も大切な仕事である。小型自動車で巡回し、植物の盗難や破壊を防いだり、温室の戸締まりを見て回るのが本来の仕事だが、来客の送迎、迷子や落とし物の世話、デートコースでの風紀の取り締まり、野犬の糞の始末といった仕事もあり、「よろず承り係」といった感がある。

『植物園の話』コンテンツ一覧▼ 目次(青字)をクリックすると、各文をご覧いただけます

本書まえがき

第一話ニューヨーク植物園
第二話古代エジプトに逆上る歴史
第三話温室は華麗なシンボル
第四話もうひとつの顔・・・・・・花壇と並木
第五話さまざまな「ガーデンズ」
第六話特殊な植物園
第七話ニューヨーク植物園の四季
第八話植物園の舞台裏
第九話植物園と大学
第十話植物を集める
第十一話植物を保存する
第十二話植物の情報ストック
第十三話植物園での植物研究
第十四話社会生活とのつながり
第十五話教育的な役割
第十六話憩いの場として
第十七話娯楽に公開されるケース
第十八話両陛下をお迎えして
第十九話菊人形と菊花展―第二回目の特別行事
第二十話ニューヨーク植物園のゲストブック
第二十一話ヨーロッパの植物園
第二十二話アジアの植物園
第二十三話北アメリカの植物園
第二十四話中・南米の植物園
第二十五話オセアニアとアフリカ
第二十六話植物園の在りかた

本書あとがき

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