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第十一話 植物を保存する

あまり知られていないが、インドネシアのボゴールとバンドンを結ぶ街道筋の海抜1,500メートルの山地に、チボダス植物園(Cibodas Botanic Garden)というボゴール植物園の分園がある。

熱帯でありながら高地のためやや涼しく、気温は年間を通じて11℃から23℃、霧が多く年雨量4,000ミリという好条件に恵まれて、温暖帯裸子植物、タケ類、ツバキ類、シダ類などの生育に適したところである。

この植物園のスギ科とヒノキ科の優秀なコレクションは、非常に印象的であった。日本や台湾のスギ、台湾杉、巒大杉、コウヨウザン、ヒノキ、紅檜、肖楠、サワラなどの種や変種をはじめ、中国大陸南部からヒマラヤに見られる珍しい種属、オーストラリア、南米のアンデス山地、ブラジル南部に産するナンヨウスギ属の各種にいたるまでが、ことごとく集められ、一種あたり二本から十数本の成木がすくすくと育っていた。

このほか、へゴやマルハチなどの木生シダ、タケ類、ツバキやサザンカ、チャノキの属するツバキ類のコレクションも立派だった。それにひきかえ、日本には、逆にこれだけ完全なインドネシア植物のコレクションをもつ植物園がないのは寂しい。

植物園が植物を集めて保存する目的には、展示のほかに、植物学研究や育種のためと植物の遺伝資源保存の目的がある。そしてこのためには、ある植物群を類縁関係に従ってもれなく集めるという系統的収集保存が望まれる。

このような系統的コレクションは、世界の多くの植物園に見られる。ボゴール植物園の野生ラン、ヤシ科、タコノキ科のコレクション、スリランカのペラデニヤ植物園のヤシ科とタケ類、インドの国立植物研究所植物園のカンナ属、ヤマノイモ属、アメリカ国立樹木園のサクラ属、モクレン属、フロリダ州のフェアチャイルド熱帯植物園のヤシ類、オーストラリアのメルボルン植物園のユーカリ類とアカシア類、同じくアデレード植物園のススキノキ科やパパイヤ属など枚挙にいとまがない。

系統的コレクションの必要性

新品種の作出や、有用植物の品種の改良をする育種法には、選抜淘汰法と交雑法の二つがある。前者は、例えば、モモの木に生じた芽条突然変異による無毛の果実のついた枝を挿し木して、ネクタリンという新しい果樹を作出した例や、アメリカの有名な育種学者のL・バーバンク(Burbank)(1849~1926)が、ふつうのサボテンのなかに刺のない突然変異型を見いだして、食用の刺なしサボテンを開発したような方法である。

後者の交雑法は、ライムギとコムギをかけ合わせてライコムギという寒冷地で栽培できる種を作り出したように、異なった種や品種間の雑種を作る方法で、縁の近い似通った植物がたくさんあればあるほど、多様な組み合わせが可能になり、よい雑種を生み出せることになる。ここに系統的コレクションの必要性がある。そして、そのようなコレクションを有用植物育種のための遺伝子プールとよんでいる。

スリランカのペラデニヤ植物園やシンガポール植物園には、ランのなかのデンドロビウムとバンダの大きな系統的コレクションがあり、交雑法によって、花の色や形の変化が千差万別のデンドロビウムやバンダの新品種をたくさん作出し、最近では海外へも輸出して、園芸研究と実益の一石二鳥を兼ねている。

アメリカ国立樹木園が、シャクナゲ類の優良品種作出に成功したのは、ヒマラヤ、中国、北米のシャクナゲ属の膨大なコレクションをもっているからにほかならない。ニューヨーク植物園のカリー樹木園は、アメリカの街路樹として重要なアメリカニレの耐病性品種の作出にあたり、耐病性遺伝子をもつ関連種を見いだすために、シベリアや中国東北部から多くのニレ類を集め、研究に資している。

消滅していく遺伝子を残す

遺伝子は、それだけを取り出して保存したり、人工的に合成したりできるものではなく、常に生体とともに存在しないと働かないものである。だから、遺伝子プールは植物群それ自体であり、緑の自然は貴重な遺伝子のプールそのものといえる。

ところが、そういう緑が急速に失われていくので、生育中の植物を人工的に保存する方法の一つとして、重要な植物の大きな系統的コレクションが植物園に作られつつある。これが人工的な遺伝子プール、つまり遺伝子銀行とよばれるものである。

人間に必要な資源植物には、食用植物、繊維植物、植林樹種、果樹類、油料植物、薬用植物など広範にわたり、いかに大きな植物園を多数造っても、人口増加による自然破壊で消失していく植物を思うがまま収集保存することは至難の業である。そこで苦肉の策として、生きた植物を栽培保存する植物園のほかに、生きてはいるが休眠状態にある種子を集めて系統保存しておく施設、つまり種子貯蔵庫(シード・バンク)が考え出された。

種子は小さいながら、その植物の遺伝子のすべてを中に秘めて眠っていて、乾燥した低温の所に置けば、かなり長く眠らせておくことができる。例えば、湿度5%、温度-19℃で冷凍保存すれば、多くの植物の種子は50年以上も寿命を保つと信じられている。

種子の長期保存庫としては、アメリカのコロラド州にある米国国立種子貯蔵所、日本の筑波学園都市にある農水省農業生物資源研究所の種子貯蔵施設などが知られているが、イギリスの王立キュー植物園にも立派な施設がある。

『植物園の話』コンテンツ一覧▼ 目次(青字)をクリックすると、各文をご覧いただけます

本書まえがき

第一話ニューヨーク植物園
第二話古代エジプトに逆上る歴史
第三話温室は華麗なシンボル
第四話もうひとつの顔・・・・・・花壇と並木
第五話さまざまな「ガーデンズ」
第六話特殊な植物園
第七話ニューヨーク植物園の四季
第八話植物園の舞台裏
第九話植物園と大学
第十話植物を集める
第十一話植物を保存する
第十二話植物の情報ストック
第十三話植物園での植物研究
第十四話社会生活とのつながり
第十五話教育的な役割
第十六話憩いの場として
第十七話娯楽に公開されるケース
第十八話両陛下をお迎えして
第十九話菊人形と菊花展―第二回目の特別行事
第二十話ニューヨーク植物園のゲストブック
第二十一話ヨーロッパの植物園
第二十二話アジアの植物園
第二十三話北アメリカの植物園
第二十四話中・南米の植物園
第二十五話オセアニアとアフリカ
第二十六話植物園の在りかた

本書あとがき

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