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第二章 ユリノキのふしぎな形態

五、ユリノキの薬効と成分

北米インディアンの薬木

昔の人は、病気の苦痛から逃れ、時には死にもつながる病気を治すために、薬による方法や外科的な方法、あるいは祈禱などのあらゆる方法を試みた。薬としては身近にある植物をまず試してみたであろう。こうして得られた薬の知識が、それぞれの民族の中に次第に集積し、その民族特有の病気の治療法が生まれて現在まで伝わっている。

ユリノキは北米特産の植物なので、現在に伝わる薬としての利用法はアメリカインディアンにより発見されたものである。

ユリノキの薬としての使い方を植物の部位別に整理してみると、根の利用が一番多いようである。根の皮を煎じた液は、マラリアなどによる熱を下げるために服用し、また、強壮作用や血を浄化させる働きがあるとされている。根をぶどう酒にひたしたものは、リウマチ、関節炎に有効とされている。むし歯の痛みには、根を煎じた液を温かいうちにむし歯の穴の中に満たすという使い方もある。これは、根の中に含まれている刺激成分によって、歯の神経が一時的に麻痺することを利用したものであろう。根を削ったものは虫下しに使う。ヘビに咬まれた傷にも使われたが、効果の方はどうであったろうか。

樹皮(幹の皮)を煎じた液は、解熱薬、強壮薬、利尿薬、健胃薬として使われ、リウマチにも用いられた。樹皮を粉にしたものは虫下しとして馬に服ませたという。南北戦争の時、ユリノキの樹皮とヤナギの仲間の樹皮とを混ぜて水にひたし、その液を兵士の発熱に用いた記録がある。これは、ユリノキの樹皮を解熱に用いるというインディアンの知識と、ヤナギの樹皮をヨーロッパで古くから解熱に用いたという知識とが結びついたものであろう。

葉を粉にしたものは、額に温湿布すると頭痛が治るといわれている。また、葉には利尿作用があるのではないかと考える研究者もいる。

芽の部分をワセリンのような油の中でよくつぶして作った軟膏は、火傷の炎症に用いられる。種子は、下剤や虫下しに用いられた。また、梅毒のような性病を治すのに樹液を使った記録もある。

中国にはユリノキと同じ属のシナユリノキ(中国名・鵝掌楸)が生育している。この植物の樹皮を凹朴皮、根を鵝掌楸根と称して、中国では薬に用いている。樹皮は、寒さで風邪をひいて咳が出たり口が渇いたりしたとき、または手足に軽いむくみがあるときに、他の生薬と一緒に煎じて用いる。根は、秋に採集したものを、強壮薬として煎じるか薬酒にして飲む。筋肉の萎縮やリウマチの痛みにも、他の生薬と一緒に煎じたものが使われている。

昔、アメリカインディアンと中国人がユリノキの使い方で知識を交換したことはないと思われるが、それにもかかわらず、根を強壮薬やリウマチの薬などに同じ目的で使っているのは面白いことである。

このようにユリノキはいろいろな薬効をもっているが、それでは薬として重要な植物かというと、現在ではそれほどではない。いままで述べてきた薬効も、とくにユリノキでなければと言うほどのものはない。アメリカの医薬品の基準書であるUSP(アメリカ薬局方)には、一八二〇年から一八八二年まで収載されていたが、現在は載っていない。中国でも、シナユリノキは薬としてあまり重視していない。

しかし、後述するように、インディアンの伝承的な使い方から離れて別の新しい手段で調べたところ、ユリノキに抗癌作用や殺菌作用があることがわかったように、今後、科学的な種々の方法を用いたり、インディアンの使い方を整理・分析したりすることによって、いままで知られていなかった新しい薬効が発見される可能性は十分にある。

抗癌作用のあるユリノキ成分

次に、ユリノキに含まれている成分について述べてみよう。

多くの研究があり、得られた成分の種類も実に多い。ユリノキの自生地であるアメリカ人の研究が最も多いが、日本、オーストラリア、ソ連での研究もある。これらの研究のうち興味あるものをとりあげてみよう。

オハイオ州立大学のR.W.Dosckotch とF.S. El-Feralyは、癌に効く植物を見つける目的でヒトの咽頭癌の細胞を培養し、これに種々の植物のエキスを加えて癌細胞の増殖を阻止する力を調べていたところ、ユリノキの根皮のアルコールエキスに強い効果があることを発見した。

そこでノースカロライナ産のユリノキの根皮二・〇キログラムをアルコールで抽出し、成分を分析すると、一九六九年に有効成分としてcostunolide(Ⅰ)〇・三一グラム、tulipinolide(Ⅱ)一・七一グラムが得られた。なお、樹皮は癌細胞に何らの効果もなく、Ⅰ、Ⅱともに含まれていなかった。一九七〇年には、根皮の有効成分としてさらにepitulipinolide(Ⅲ)が得られた。

これらの物質の癌細胞増殖抑制効果を示す有効濃度(ED50)は、根皮のアルコールエキスを癌細胞の培養液一ミリリットルに対して四・一マイクログラム(一マイクログラムは一〇〇万分の一グラム)加えると有効であったのに対して、Ⅰは一ミリリットル中〇・二六マイクログラム、Ⅱは〇・四六マイクログラム、Ⅲは〇・三四マイクログラムであった。すなわちⅠが最も活性が強く、もとのエキスの一五・八倍の効果があった。

彼らはその後さらに研究をつづけて、葉にも培養癌細胞の増殖を阻止するものがあることを知り、一九七二~七四年に有効成分としてlipiferolide(Ⅳ)、epitulipinolide diepoxide(Ⅴ)を単離して発表した。有効濃度は、Ⅳが一ミリリットル中〇・一六マイクログラム、Ⅴが〇・三四マイクログラムであった。また、根からはさらにγ-liriodenolide(Ⅵ)が得られたが、このものの有効濃度は一ミリリットル中四・一マイクログラムで他のものよりも弱かった。なお、Ⅰ~Ⅵは水には溶けないので、煎じた液にはあまり含まれていないものと思われる。

Ⅰ~Ⅵの成分のあるものは、マイマイガの幼虫の摂食阻害作用、すなわち幼虫の餌に混ぜると餌を食べなくなる作用がある。たしかに、ユリノキの葉は野外で観察するとほとんど昆虫の食害を受けていない。これは含まれている摂食阻害作用を示す成分のほかに、後に述べる精油成分の中に昆虫がいやがる成分があって、昆虫に対して忌避反応を起こさせるためではないかと思われる。この点をくわしく研究したら、ユリノキから殺虫剤や昆虫の接近をふせぐ忌避剤が誕生するかも知れない。

このようにユリノキの根皮と葉には、培養癌細胞の増殖を抑制する抗癌物質が含まれているわけであるが、培養した癌細胞に効いたからといって、人間の身体の中の癌に効くとは限らない。また、癌細胞を殺す物質は、一般に正常な細胞に対しても毒性を持っている。今までに多くの植物の成分が実験的には癌に効いていながら、人間に対しては効果がなかったり毒性があったりして、実用化されずに消えてしまった。ユリノキの抗癌成分はどうなのであろうか、興味のあるところである。

辺材が示す抗菌物質と香りの成分

オハイオ州立大学でのユリノキの成分研究グループの一員であったC.D.Huffordは、その後ミシシッピー大学に移ってさらに研究をつづけ、ユリノキの黄色の心材のアルコールエキスが、黄色ブドウ球菌(化膿をおこす菌)、スメグマ菌、カンジダ、クロコウジカビなどの微生物に対して強い抗菌力があることを知り、一九七五年に有効成分としてdehydroglaucine(Ⅶ)とlinodenine(Ⅷ)の二種のアルカロイドを報告した。これらの成分は、前述した微生物のほかに枯草菌に対しても抗菌力がある。しかし、大腸菌には無効である。

ユリノキの他の部分、すなわち葉、樹皮、根皮、果実、花には抗菌力はなかった。また、心材に含まれるⅦ、Ⅷ以外のアルカロイドも無効であった。

Ⅷは、すでに一九六〇年にユリノキの成分として報告された物質で、非常に濃い黄色をしているために初めはアルカロイドとは考えられず、特殊な色素だと思われていた。ユリノキの心材が黄色く着色している原因のひとつは、Ⅷの存在のためである。

ユリノキの正常な辺材は明るいクリーム色、正常な心材は明るい黄緑色であるが、生きているユリノキが何らかの理由で傷ついて侵されると、材がしばしば緑、ピンク、赤、紫、青、褐色、さらに黒にまで変色することがある。この変色をおこす成分のあるものは、材が微生物に侵されて腐朽するのを防ぐために、ユリノキが傷ついた部分に分泌する一種の抗菌物質( phytoalexin )と考えられている。

ノースカロライナ州立大学の Chen-Loung-Chen らは変色した辺材の成分を研究して、ユリノキが傷つくとglaucine(Ⅸ)やcornine(Ⅹ)などの六種のアルカロイドが盛んに生産されることを発見した。Ⅹは暗緑色の物質で、辺材が変色する原因となる物質のひとつである。六種のアルカロイドのうち、Ⅸは正常な辺材や心材にも見られるが、他のものは変色した辺材中だけに見られる特有の物質である。

ユリノキの葉を乾燥したのち、粉にして燃やすと線香そっくりの匂いがする。盛岡市のあるお寺では、すでに抹香として利用していることを、本書の筆者である毛藤博士からお聞きして、私の研究室でその成分を研究したことがある。

わが国で葉を線香の原料にする植物としては、カツラが有名である。カツラの葉からは甘い匂いのする maltol(Ⅺ)が大量に得られ、これが香りの本体とされているので、ユリノキもそうではないかと考えたが、残念ながらⅪは含まれていなかった。ただ、葉を燃やすと、葉の中の砂糖が分解してⅪが発生することが確かめられた。しかし、Ⅺだけでは、ユリノキの葉を燃やしたときの匂いとはかなり違う。

おそらくあの匂いは、燃やしてできた成分と、葉の中に初めから含まれている精油成分の混じったものと思われる。

そこで精油成分の分析をすることにし、一九八一年七月に岩手大学演習林で採集した生の葉四五キログラムを水蒸気蒸溜して、特有の香りのある精油一五ミリリットルを得た。

この精油をガスクロマトグラフィーで分析したところ五〇種以上の成分が認められた。その主なものは β-myrcene, cis-3-hexen-1-ol, linallol, β-caryophyllene, isovaleric acid, nerolidol, chavicolなどで、chavicol以外は植物の精油成分としてはよく見られる成分であった。葉の精油含有量はそれほど高くなく、たとえば葉を破いて匂いをかいでも、あまり強い匂いはしない。根は非常に香りが高く、葉の三倍の精油を含んでいる。主な成分は α-pinene, β-myrcene, limonene, 1,8-cineol, fenchone, linallol, β-caryophyllene, α-terpmelo, borneol, chavicolなどで、針葉樹の精油成分と似ている。これらの精油成分のうち、chavicolはある種の昆虫に対して摂食忌避作用を持っている。

ここで、ユリノキとシナユリノキの雑種を成分的に証明した研究を紹介しておく。

ユリノキとシナユリノキは容易に交雑して雑種をつくるが、種子から出た芽生えをくわしく調べても両親と差がなく、雑種であるという証明はなかなかできない。成木になるまで育てて花を観察するには、かなりの年月が必要である。

しかし成分的にみると、シナユリノキと雑種には quercetn -3- glncoside -7- rhamnoside (Ⅻ)が含まれているが、ユリノキには含まれていない。そこで、ユリノキの雌しべに花粉をつけたのち得られる種子を播いて、もし、生じた苗にⅫが含まれていれば雑種ということになる。

一九八五年には、アメリカのアイダホ北部で見つかったユリノキ属植物の化石の成分を調べたところ、葉の形はアメリカに現生しているユリノキに似ているのに、成分はむしろシナユリノキに似ていたという興味ある研究が発表されている。

このほかにもユリノキからは種々の成分が得られて報告されているが、特別な生理作用や話題がないので省略する。

(指田 豊)

コンテンツ一覧▼ 目次をクリックすると、各記事をご覧いただけます

第一章 ユリノキという木

一、化石のなかの「ユリノキ」 村井貞允
  • ユリノキ属の出現
  • わが国におけるユリノキ化石発見の歴史
  • 琵琶湖よりも大きかった古雫石湖
  • ユリノキ化石の仲間たち
  • ユリノキの繁茂した古環境
  • ユリノキの仲間のうち、興味ある種類
二、北米産ユリノキのこと 四手井綱英
  • 東部森林の代表者ユリノキ
  • 外国樹種の導入
  • 導入の失敗と成功例
  • ユリノキへの期待
三、シナユリノキのこと 毛藤圀彦
  • シナユリノキ発見の記録
  • リリオデンドロン・キネンセ
  • シナユリノキの天然分布
  • 樹齢一〇〇〇年の最大樹発見
  • ユリノキとシナユリノキの関連
四、ユリノキの名前
  • 呼び名いろいろ
  • ハンテンボク
  • イエローポプラ
  • チューリップツリー
  • カヌーウッド
  • サドルツリー
  • カナリーウッド
  • バスウッド
  • ホワイトウッド
  • ユリノキの学名
  • リリオデンドロン・ツリピフェラ

第二章 ユリノキのふしぎな形態

一、花
  • 原始の花
  • 緑色の花冠
  • 古代花の形質
二、葉
  • 葉先のない珍しい葉形
  • 難解な葉の表現
  • 発見した小さな突起物
三、生長
  • どのくらい大きくなるのか
  • 生長迅速
  • 容姿端整
四、寿命
  • 樹高六〇・四メートルの巨木
  • 枝と幹と樹皮
五、ユリノキの薬効と成分 指田豊
  • 北米インディアンの薬木
  • 抗癌作用のあるユリノキ成分
  • 辺材が示す抗菌物質と香りの成分
六、花蜜
  • 一花に小匙一杯ほどの
  • 蜂を呼ぶ
  • 蜜の品がら

第三章 アパラチア山麓のユリノキ

一、チューリップの木の花かご
二、幻のユリノキを訪ねて
  • 手当たりしだいの伐採
  • 神々の樹との出会い
三、天然林に生きる
  • 天然更新できない理由
  • 世紀末をむかえたユリノキ
四、ユリノキ天然林の植物相
  • 山岳天然林
  • 低地天然林
  • 丘陵地天然林
  • 河床地天然林
  • ユリノキの食害
五、伐りつくした材
  • 「光沢の白材」と呼ばれて...
  • 木材としての価値
  • 材の堅さと強度

第四章 ユリノキ・ニッポン物語

一、日本渡来考
  • 伊藤圭介説と田中芳男説
  • 不発芽に終った第一号
二、長岡苗木について
  • 初代の並木たち
  • 公園設計の父・長岡安平
  • 御苑ユリノキを母樹として
三、小泉苗木について
  • ユリノキ二世のルーツ
  • 啄木と同期の小泉多三郎
  • 造園業のパイオニア藤村「豊香園」
四、横山苗木について
  • 造林の先駆者・横山八郎
  • 小泉苗木を継いだ横山苗木
五、ロウソクノキの林
  • 紺野ツマさんの林
  • 半世紀後のみごとな林分
六、新宿御苑のシンボル
  • 御苑の来し方
  • 寄せ植えした三本
七、上野・銀座のユリノキ
  • 牧野富太郎の設計
  • この木なんの木
  • 銀座のユリノキ
八、受難のユリノキ二題
  • 三菱爆破事件の顛末
  • 「宮沢賢治の母校並木」の顛末
  • 植栽用途と生育状況の把握

第五章 都市と田園のユリノキ

一、植えたい人へのメッセージ
  • 「田園の幸福」の花ことば
  • 植栽上の七つのポイント
  • 北限および南限と適地
  • 防火樹としての効果と萌芽力
  • 枝折れ
  • 冬の小苗管理法
  • アメリカシロヒトリ
二、ユリノキの優れた園芸品種
  • 樹形変わりと葉の変化
  • 新品種への期待
  • 現在の園芸品種
三、世界の国のユリノキ事情
  • 九カ国の生態学者に聞く

第六章 ユリノキ実験考

一、移植
  • 成木移植はむずかしい
二、三年生株と幼苗の移植実験
三、実生苗
  • ユリノキ苗木の量産法
  • 種子のカーペット
  • 樹下採苗
  • 四〇パーセントに近い硬実歩合
  • 五〇〇メートルも飛ぶ翼果
  • 一樹から採れる種子数

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